助けて…    千葉県

■情報提供 姉ほどじゃないけど…さん(東京都 男性) 


 都市伝説とは言えないのかも知れないが・・・・。

 俺の祖母の家の近くの山には、その付近に住む人達の間で、決して近寄るなと言い伝えられている池がある。
 近づくと、ばしゃばしゃという水音とともに、
「助けて…、助けて…」
と助けを求める子どもの声が聞こえる、というのだ。
 近年、その池は干からびてしまったのだが、それでも興味本位で近づいたりすると、やはり水音がし、その声が聞こえるのだそうだ。
 中には、その声が耳に憑いて離れず、最後には精神を病んでしまった人まで出たという。
 俺と姉は、昔からその土地に住む祖母にせがんで、その声の由来を話して貰った・・・・・・

◆◆◆◆◆

 あれは、戦時中のことだった。その頃あの山の上にはお寺があってな。何十人もの子供らが町の空襲を避けて、疎開しに来ておった。
 小さなお堂にたくさんの子が寝泊まりしとるもんだから窮屈だし、時代が時代だからなぁ、食べ物は足らんし、そりゃぁ可哀想な暮らしをしてたよ。
 まぁ、その頃は疎開っ子だろうが地元の子だろうが、似たり寄ったりの暮らしだったけど、親と離れて暮らしてる分、よけい可哀想に見えたよ。

 ある日のことだ。ここにも空襲があってな。こんな田舎に空襲なんて滅多にないことなんだけど、何の間違いか、アメリカさんの爆撃機がわんさか飛んできたんだよ。
 空襲警報の後、遠くから、低い、「ゴー」っていう、何とも言えないいやな音が近づいてくると、疎開っ子達は怖くて泣き叫んでたらしいが、一緒に来ていたあの子達の先生が
「ここは安心だから。大丈夫だから。」
って、一生懸命なだめてたそうだよ。
 町の空襲に追われてきた子たちだから、空襲の怖さは私らよりよく知ってたんだろうね。だから怖さに耐えきれなくなってしまった子どもが二人、先生がちょっと目を離した隙に、お寺から逃げ出してしまったんだ。
 ひょっとしたら、町に住むお母さんやお父さん達の所に行きたかったのかも知れないね。
 その子達は山の中を逃げ続けていたらしいよ。
 そのうちに喉が渇いたんだろうね、山の中にあった池に近づいたんだ。一人は止めたらしいんだけど、喉の渇きが我慢しきれなくって、水辺まで下りてしまったんだ。
 山の中の池ってのは、里の田んぼや畑に水を引くためのため池が多くてね、水をたくさん貯められるように周りの傾斜が急なのが多いんだよ。大抵がすり鉢みたいになっていて、足滑らせると危ないんだ。大人だってなかなか上がれるもんじゃない。大きな蟻地獄みたいなもんだ。
 案の定、その子は足滑らせて落っこちてしまった。
 あわてて、もう一人の子が助けを呼びに走ったんだそうだが・・・・。
 間に合わなかったんだ・・・・・・。

 それ以来だよ・・・・・、あの池で、
「助けて、助けて。」
って声が聞こえるようになったのは・・・・。

◆◆◆◆◆

 この話を聞いた祖母の家からの帰り道、俺と姉は
「あの山の奥には絶対にいかないようにしよう。もしかしたら(良い体験より怖い体験の方が圧倒的に多い私たちは)見ちゃうかもしれないし。」
「うん、絶対いかない。」
と言い合い、今もそれを守っている。