深夜のパソコン

 私は居間の座机にノートパソコンを置いて画面に向かっていた。
 普段PCは寝室の自分のデスクに置いてあるのだが、その日は蒸し暑くエアコンの効いた場所にいたかったからだった。
 寝室にもエアコンは設置してあるが、妻も私も眠るときにエアコンをかけるのが嫌いで、妻は早々に寝室に引き上げていたので階下の居間にパソコンを移して作業をしていたのだ。
 作業は終わり、ふと、暫く更新できていないこのサイトのことが気になってページを開き、自分の記事や投稿記事の数点を読み返していた。
 気づくと時間は3時を大きく回っていた。翌日は休日だとはいえ
「そろそろ寝ないと。」
そう思って腰を上げ、エアコンのリモコンが置いてある場所に立った。

 「こ・こ・こ・こ・こ・・・・・」

 背後で女性の声がした。私は驚いて振り返った。
 続いて嗄れた中年男性の声も聞こえた。
 そこから見ると向こうを向いているノートPCから発せられている。
 時間にしてものの数秒。声は小さく何を言っているのかは判然としない。二言か三言ずつのやり取りだった。女性は泣いているようにも聞こえた。
 もちろん空耳かとも思った。隣室との間の引き戸は閉まっているが表通りに面した隣室のガラス戸のサッシは通気のため開け放してあった。表通りに人がいるのかとも思った。
 しかし耳にした声は肉声と言うよりノートPCの貧弱なスピーカーを通したもののようだったし、何より声がそこから発せられたのだと私を確信させたのは、私が座っていた場所のすぐ隣で眠っていた猫だった。
 ずっと長く家に居る、かなりの老猫だ。だからPCやテレビからの音声には全くの無関心になっていて、それに驚くようなことはない。殆ど一日中眠っている。
 そのさっきまで寝ていたはずの猫がきちんと床に座って訝しげにPCを見つめているのだ。警戒したり怒ったりはしていない。少し首をかしげてPCをただ見つめている。
 少し背筋が寒くなった。
 しかしすぐに、「音が出るようなページは見ていなかったが、もしかしたら開いてるページの下に隠れたウィンドウかもしれない。」と思い、PCの前に座り直して点検してみた。しかし何も見つけることができなかった。
 猫を見るとまた眠っている。
 何だったんだろうと思いながらもPCの電源を落とした。画面が暗くなるのを確認してからPCの画面を閉じ、部屋の灯りを消した。
 隣室のサッシを閉じ、PCを寝室に戻すために再び居間に戻った。

 閉じたPCが起動していた。

 真っ暗な部屋の中で、小さなインジケータランプが明滅し、画面とキーボードの隙間からは画面のバックライトが漏れている。
 再び電源を落とした。暫く待ってみたがそれ以上は何の異変も起きなかった。
 さすがに寝室にPCを持って上がる気になれず、その夜はそのまま居間に放置することにしたので、それから後のことは分からない。

 深夜にオカルトサイトなど見ない方がいいのかも知れない。



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