お参りする老婆

 これは私が高校2年生の時のことである。友人と2人で自転車に乗って、農道を走っていた時のことだ。時刻は夕方五時頃だったろうか。
 その道は、人通りはあまり無いが見通しはよく、とくに変なムードがあったりするところではなかった。田舎のことであるから、農地の真ん中の道のそばに、地蔵をまつっている小さなお堂が建っていた。
 私が前を走り、友人は私の後方20mぐらいの所を走っていた。
  右図のAの地点から前方の地蔵堂にふと目をやると、もんぺ姿の老婆がしゃがみ込み、手を合わせお参りしているのが見えた。
 そのあたりでは別に珍しい光景でも何でもなく、私はとくに気にとめることもなくそのまま自転車を走らせた。その老婆の姿は、植え込みの陰に隠れ、一瞬見えなくなった。
 そして、植え込みを過ぎ、Bの地点まで来て再び地蔵堂の方に目をやった時、老婆の姿は忽然と消え失せていたのである。AからBの地点までは10mほど。高校生がこぐ自転車であるから、たとえ道が舗装路でなかったと言うことはあっても、Aの地点からBに達するまではほんの数秒である。老婆がどこかへ隠れる時間はないに等しいし、また隠れる必要もあるはずがない。
 私は、ぞっとして、その場で自転車をUターンさせ、後方から来る友人のところへとって返し、今自分が見たことを話したが、彼はまともに取り合おうとはしなかった。

 あれは単なる目の錯覚だったのだろうか?


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