ホワイトジーンズの男

 私は、2泊3日の子どもキャンプのリーダーとして、大阪の郊外にあるキャンプ場へ来ていた。
 リーダーは5人ほどがきていたが、スナップ写真を撮ることまでは手が回らず、専門のカメラマンが同行していた。彼は若いだけあってよく動き、精力的に子どもたちの姿をカメラに納め、また子どもたちともうまく関わってくれて、子どもたちからはお兄さんのように慕われていた。また非常に誠実な人柄で、撮影以外の雑用も気軽に引き受けてくれ、私たちリーダーからも信頼を集めていた。

 そのキャンプ場は、学校などの団体がよく利用する場所で、常設テントと呼ばれる、高床式の大きなテントが山の斜面にいくつも設置されている。15人ほどが寝泊まりできるほどの巨大なもので、床は板張り。テントと言うよりはテントの形をしたロッジと言った方が近いかもしれない。
 一日の活動の終わりに、その日の活動の反省会や翌日の連絡を行うため、会議用に当てたテントに各班の班長を集めて話をしてた。
 夕方から降り出した雨はかなり激しくなり、ビニールコーティングが施されたテントに落ちる大粒の雨の音はバラバラと激しく、会話をしようと思うと、少し大きな声で話さないとうまく聞こえないほどだった。
 雨は激しく降ってはいたが、子どもたちの活気もあってむしむしと蒸し暑く、入り口は三角に少し巻き上げ、私はその入り口に背を向けて座っていた。

 会議の中程に、ふと、背後に目をやると、雨が激しく降る外の斜面に、白いジーンズに白い半透明のポケットカッパを着込んだ若い男の足が見えた。彼の上半身は巻き上げた入り口の布に隠れて見えず、足だけが中から漏れる光で照らされていた。私はカメラマンがこの会議のスナップを撮るために来たんだろうと思い、自然な姿の方がいいと判断して会議を続けた。
 しかし、いくら待っても彼はテントの中に入って来ず、しびれを切らした私は
「どうぞ入ってください。」
と声をかけながらもう一度ふりかえった。

 誰もいなかった。
 大粒の雨が山の斜面をパシパシと叩いているばかりである。

 「なんだ、写真を撮りに来たんじゃなかったのか。何の用だったんだろう。」
と思いながら、私は再び会議を続けた。
 班長会を終え、次はリーダー棟と呼ばれる建物の中で行われるリーダーの会議である。
 一日よく働いてくれたカメラマンも慰労せねばならず、彼も招いていた。濡れたのであろう、彼は白いジーンズを脱ぎ、ブルージーンズに着替えていた。
 私は彼に、何の用だったのかを尋ねた。しかし、彼は何のことだか分からない様子だった。私はもう少し詳しく先ほどのことを説明した。しかし、彼はきょとんとして、その時間帯は他のテントをたずね、テントの中ではしゃぐ子どもたちの写真を撮っていたというのだ。また、彼はホワイトジーンズは持っていないし、カッパもポケットカッパのような簡易のものではなく、防水加工を施した山岳用のヤッケとオーバーズボンを着用していたとも言った。
 他のリーダー達にも尋ねてみたが、ホワイトジーンズをその日持ってきているものは一人もなかった。子どもだったのかとも思い返してみたが、明らかに私が見たのは大人の足だった。

 あれは一体何だったのだろう。
 そのキャンプ場も他のキャンプ場の例に漏れず、幽霊の目撃談の豊富な場所ではあるが、カッパを着た幽霊なんて聞いたことがない。幽霊には足が無いとも聞くが私が見たのは足だけだ(笑)。


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