昔から猫は特殊な霊能力を持った動物として畏れられてきているようだ。例えば、化け猫の怪談があったり、黒猫が死を連想させる動物として忌み嫌われてきたりしてきた。また、逆の例としては、古代エジプトで神の使いとしてあがめられたり、日本では招き猫のように福をもたらす力がある動物として民間信仰を集めたりもしてきた。
 恐らく、夜、猫の目が光ることや、暗闇でも音もなく歩けること、少しの隙間があれば侵入してしまうことなどが、猫の特殊な能力を連想させてきたものだと思われる。
 
 しかし猫を長く飼っている私は、そういった伝承の中に、別の意味が隠されているような気がしてならないことがある・・・・


気配

 私はまだ大学生の頃アパートで猫を飼っていた。雑種だったが真っ白のそれはきれいな雌猫だった。ペットは表向きはダメなアパートだったのだが、他にも犬を飼っている人もいて、大家さんも黙認してくださってたのだが、ひょんなことからアパートでは飼えなくなり、外(大学構内の目立たない場所に小屋をこっそり造って)で飼うことにした。そして、ある出来事が起こり行方不明となってしまった。懸命に探したのだが結局それきりだった。

 私は大学を卒業して数年で結婚し、妻と二人で暮らしはじめた。妻は私が飼ってた猫を直接知ってはいなかっただが、時折、私も妻も猫の気配を感じることがあった。
 はっきりと目撃したわけではないのだが、視界の隅を真っ白な猫らしき影が走るのだ。ある時は、朝歯を磨いていると足下に真っ白い猫がう(うずくま)っていたり、またある時は、戸を開けた時、さっと足下をすり抜ける白い影があったりするだった。

「あいつ、死んで成仏できてないのかなぁ。迷っているのだったら可哀想やなぁ。」
と、そんな風に私も妻も怖いとは思わず、むしろ哀れに思っていた。(元々妻には少し霊感があり、私以上に無類の動物好きだったので、気持ち悪がったり怖がったりはしなかったのだ。)

 その後、私たちは再び猫を飼うようになり、3頭に増えた。
 夜寝ていると少し高いところから床に「トン」と飛び降りる猫の足音が聞こえることがあった。
「だれや、夜中にうろうろしてるのは。」
そんな風に言うと妻がこうこたえた。
「あなたも今の足音聞いた?でも、3人(笑)ともココにいるのよ。」
そういう妻の布団の中に3頭ともすやすやと眠っているのだった。

 また、それと関係があるのかないのか分からないが、猫たちが何もない宙の一点を見つめていることがある。虫でも飛んでいるのかと目を凝らしても私たちには何も見えない。
 そのうち、猫たちが見ている何者かは空中を移動始めたようで、そろって視線を動かし、しばらくするとそれを「ダダダダ」と追いかけ始めた。
 猫たちはベランダのガラス戸の前まで追いかけると、並んで立ち止まって外を見つめ、しばらく経つとそれは外から家の中に入ってくるようで、また部屋の中を追いかけ始める。猫の視線を追っていると、明らかにその何者かはガラス戸を平気で素通りし、空中を飛び回っているようなのだ。私たちには何も見えないのだが、猫たちにははっきり見えているようなのだ。また、猫たちの様子は敵意を持っていたり警戒している様子はなく、夢中で遊んでいるようなのだ。

 最近は私も妻も白い猫の気配を感じることもなくなったし、飼っている猫たちもそんなおかしな行動をすることはなくなった。

 無事成仏してくれたのだと、思うようにしている。


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