布団の温み

 20年近く前、いっしょに暮らし始めた三頭の猫(三頭とも同時に我が家に来たわけではなく、まず一頭の雄の野良猫と出会い、後に二頭と出会った。)は老齢のため順に他界し、昨年、長い間がんばってくれていた子も旅立ってしまった。
 でも、三年ほど前の嵐の夜に子猫が裏庭でピーピーないていたので、「今夜は嵐が来るし」と妻に言い訳して家に上げてしまい、当然のことのようにそのまま飼うことになったので、未だ猫との暮らしは続いている。
 この子は、妻にはなついているのだが、私のことが苦手なようで、よほど気が向かないと触らせもしないし、どんなに寒い夜も私の布団の中に入ってくるなんてことは決してない。
「嵐の夜の恩を忘れたか」
と言ってはみるが、そんなことは知らんとばかりに、私の足音がするだけで逃げてしまう始末だ。

 先日、もう二時を回っていたが私はなかなか寝付けないでいた。
 目をつぶったまま、いろいろと考え事をしていると、あの子が私の布団の肩口にやってきて、中に入れろと肩の辺り布団を、砂を掘るような仕草でひっかいている。
「あれ?ドア、開けたままにしてたっけ?しかし、珍しいこともあるもんだ」
と思ったが、目を開けるとまたさっと逃げてしまうと思ったので、目は閉じたまま、黙ってゆっくり布団を持ち上げてやると、するすると布団の中に入ってきた。そして布団の中で私の胸の辺りから体の上に乗り、そのまま、開いた私の股ぐらまで移動して太股にもたれかかって体を横たえた。
 一番始めに我が家に来た子が、冬場よくやっていた眠り方だ。
 猫が居ることで布団の中のぬくみは増し、懐かしい感触に私はすっかり嬉しくなってしまった。
 暫くそうしていたがやっぱり落ち着かないようで、足の方から布団の外へ出てしまった。
 残念に思っていると、また肩口から布団の中に入ってきた。そして足元から外へ出るということを三度ほど繰り返した後、今度は布団の上から私の胸の上に乗り、ご飯の催促をする猫がよくやる、前脚で顔を圧す仕草をしていたか、そのうち片方の脚が口の中に誤ってグニュッと入ったときにはさすがに驚いて「うっ」と声を出してしまった。
 とたんに私の胸から降りて寝室のドアの方へと去っていった。そして、トントントンという、階段を下りていく足音。
 今日は一体どうしたんだと、ここで初めて私は目を開けドアの方に目をやった。

 愕然とした。
 ドアはきちんと閉じられていた。

 もちろん私は恐ろしいなどとは感じなかった。旅立った子たちのうちの一番私になついていた子が帰ってきてくれてたんだと、むしろ嬉しい気持ちでいっぱいだった。
 以前書いたように、私は旅立った猫たちの気配を感じることは、今までにも何度も経験していが、こんなにも濃密に、はっきりと接触できたことは初めての経験だった。
 現在いっしょに暮らしてる猫に好かれず、寂しい思いをしている私を慰めに来てくれたのかな・・・・(笑)


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