予知夢

 これは私ではなく、私の妻の話です。妻は幼児期から度々予知夢をみているらしいのです。予知夢とはご存じの通り、未来に起こることを前もって夢に見ることを言います。
 普段生活をしていて時折彼女は
「あ、これ夢に見た。」
と、言い出すことがあります。私は
「デジャヴー(既視感)やないのか?」
と言うのですが、どうもそうではないらしいのです。
 彼女の話によれば、夢を見た時この夢は予知夢だと言うことがわかるんだそうです。 でも、それがいつ起こることなのかは判然とはしないのだそうです。
  彼女の予知夢は、動画ではなく静止画で、自分以外の登場人物の顔ははっきりしないことが多いのだそうです。 ただ、その場面の風景やムードはかなり、リアルに見えるのだそうです。
 私に出会う前にも私(らしき人物)と喫茶店でお茶を飲んでる場面を見たそうで、 その喫茶店は見たことも行ったこともないところだったそうです。


 今の妻との交際が始まり、私は車を走らせていろいろなところへ彼女を連れて行くのを常としていた。
 その日は、京都の周山街道にある「Hook & Line」(釣り針と釣り糸)というとっておきの喫茶店(今はもう無い)に連れて行くことにした。
 うっそうとした山の中を走り、トンネルを越えると突然現れる、しゃれた煉瓦造りの建物で、ひげを蓄えたマスターと、店内の片隅でいつもパッチワークのタペストリー作りをしている奥さんと、きれいなゴールデンレトリバーが出迎えてくれる、静かな喫茶店だった。
 奥さんが焼く手作りケーキに入ってる木の実は、付近の山でマスターがとってきたものだったりする。二階は画廊になっていて、海外から日本に移り住んだ画家の版画が展示されていた。
 あまり知られていない、穴場の喫茶店だった。かなり京都の中心部からはあるので、車の免許を持たない彼女が知るはずのない店だった。私は彼女を驚かせてやろうと内心一人期待に胸をふくらませていた。
 しかし・・・

「私、ここ知ってる」

と彼女は言いだした。

 その時私は初めて、彼女から予知夢のことを聞いた。
 この場所の夢は、私と出会うずいぶん以前に見たのだと彼女は言う。ただ、夢で見た時は私の顔は霞がかかったようにはっきりとはせず、ただ自分の前に誰か男性が座っていると言うことしか分からなかったそうだ。
 私は半信半疑だったが、真剣な眼差(まなざ)しで話す彼女の話に嘘はないなという感じを持った。少なくとも彼女にとっては真実なのだろうと思った。
 じゃ、今度予知夢を見た時に教えてくれと言うと、それは出来ないのだそうだ。喋ってしまうとそれは実現しないか、または実現する時期が遠ざかるのだそうだ。

 だから、証明のしようのない話ではある。


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