ひとだま1 (父のケース)


 火の玉・ひとだまと呼ばれる発光物体の目撃譚は多いようです。
 人間の体内にあるリンが発火するのだとか、局所的な電磁気異常だとかいろいろな説がありますが、昔の怪談ではヒュードロドロという音とともに必ず登場したものです。
 何となく懐かしい気分になれるひとだまは、ひとだまとしてそっとしておいて欲しいと願うのは私だけでしょうか。


 私の父は寺の生まれで、小さい頃はよくひとだまらしき物を見たそうだ。いろいろな話があったのだが、私が聞かされた物で印象的な話を一つ。
 父は、子供の頃、よく寺の本堂の屋根に上って遊んでいた。もちろん見つかると叱られるのだが、それでも何度となく屋根に上った。そして、小高い山の中腹に建つ寺の本堂の屋根から、眼下に広がる村を眺めて夕刻まですごすのだ。
 食糧難の時代に、檀家の寄付やお供え物で生活している「寺の子」は同年代の友達には疎まれ、いじめの対象になることもあり、その寂しさを紛らすためであったのかも知れない。
 その日も、父は、また本堂の屋根に上り、夕闇迫る村を眺めていた。寺の横には墓があり墓石に留まって啼く烏の声が妙にわびしく響いていた。
  突然、その墓の敷地の中央あたりから、ソフトボール位の大きさの発光物体が短い尾をひきながら、垂直にかなり速いスピードで飛びあがり、父の居る本堂の屋根より遙か高い上空に達したかと思うとあっという間に消えたそうだ。
 孤独な少年のひとだま目撃。妙に絵になる話である。


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