因縁

 私は学生時分バイクに乗っていました。バイクに乗るための免許を取得したとき、私の父は特に反対はしませんでしたが、私を戒めるためにこんな話を聞かせてくれました。

 私の曾々祖父は軍人で、満州で暮らしておりました。写真を見せてもらったことがありましたが、馬上で胸を張った軍服姿の凛々しい写真でした。彼は若くして満州の地で亡くなりました。戦死ではなく、落馬による事故死です。
 以来(それが最初かどうかは定かではありませんが、記録の上ではそれが最初)父方の家では騎乗姿の乗り物(バイクや自転車)での事故が後を絶たないのです。
 たとえば父の長兄(私の叔父)はまだ40代の若さで、バイクに乗っていて、飛び出してきた人を避けようとして、ブロック塀に激突し命を落としています。
 その叔父の息子たちは二人ともバイクで事故を起こし、そのうちの一人は折れた肋骨が肺に刺さり、一度は心停止の状態にまでなるという大事故でした。寺の一家であるせいか、祖母はさっさと葬儀の準備を始め、彼の母は「まだわからない!」と半狂乱で祖母をなじったそうです。その後奇跡的に一命を取り留めましたが、彼は私の大好きないとこで、事故にあったという話が伝わってきた時のショックはよく覚えています。
 また父の弟は、神戸の港の税関事務所に勤務していましたが、仕事中、自転車に乗っていて、誤って海に転落し、亡くなりました。

 そんな因縁話を聞いても、バイクへの思いは捨てられず、250ccの排気量のバイクを購入しました。
 そして、私自身もバイクに乗っていて事故に遭うことになってしまいました。私が運転していたわけではなく、友人のバイクのタンデムシート(後部座席)に乗せてもらっているときのことです。道は混雑しており、私たちは車の横をすり抜けて走行していました。そして、交差点に入ったとき、右折してきた車に衝突しました。私は決して体重の軽い方ではありませんが、軽々と空中に飛び上がり一回転して、衝突した車のボンネットの上に背中から落下しました。その姿を見た、私たちの後ろから追走していた私の友人によれば、「死んだ」と思ったそうです。
 その後、私はボンネットの上でバウンドして地面に落ち、ごろごろとアスファルトの上を転がっていきました。「止まれ、止まれ」と思うのですが、体は止まることなく道の反対側まで転がりました。最後に縁石で、「ゴツッ」と頭を打ったのをヘルメット越しに感じたときは、「ああ、終わった。」と妙に冷静に思いました。
 それらの一連の動きは一瞬だったのでしょうが、私にとってはまるでスローモーションのように長い長い時間の中での出来事でした。

 何の偶然か私はその日、たまった洗濯物をコインランドリーで洗おうとしていて背中に背負ったデイバックには、ぎゅうぎゅうに衣類が詰め込まれていました。それが緩衝材となり、私はほとんど無傷でした。
 担ぎ込まれた病院では頭も入念にレントゲンを撮りましたが大丈夫でした。ただ、ジーンズの尻のポケットには硬貨のたくさん入った財布があって、それでどうやら打ち身になっているらしく、お尻がじんじんと痛んでいました。医者にそのことを話すと尻もレントゲンを撮ろうという話になりました。そのとき、思い出したのです。最近風呂に入っておらず、下着もろくに取り替えていないことを!!
 下着姿になることをおそれた私は抵抗しましたが・・・徒労でした・・・・。

 ああ…。やっぱり下着はいつもきれいなものをつけておかなくては…。

 おっと 話が横道にそれました。

 幸いたいしたけがもなく、おしりに青あざができただけですみました。
 しかし、因縁…あるものなのでしょうか?

 うーん。下品な話になってしまった。ご先祖さますみません!

 でも、私こう思っています。私や、私のいとこが奇跡とも言える形で、元気にこうやって生きて暮らしていけるのも、きっと、無念な形で命を絶たれた叔父や先祖たちが守ってくれているのだと。
 因縁も悪くないって思っています。


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