記憶の相続

 この話は私が通っていた大学の一般教養の講義で聞いた話だ。
 もう20年以上も前に聞いた話なのだが、とても印象に残っている話だ。
 その教授は物理学の教授なのだが、
「物理学とは元来『究理学』と言ってね、ギリシャ哲学のように、広く世界(宇宙)の(ことわり)を追求する学問だったんだ。現在の物理学が意味するような狭い範囲の学問では本来無いんだ。」
というのが持論で、一般教養の講義だということもあったのか、よく脱線して物理とはあまり関わりがない様に思える話もよくして下さった。
 ラットを使った実験の話から始まった。
 ラットに迷路を通り抜けたら餌が手に入ることを繰り返し学習させる。難なく通り抜けられるようになったところで、そのラットを殺して脳を取り出し別のラットに餌として与える。
 すると、学習済みの脳を食べたラットは、初めての迷路にも関わらず、最短距離に近い経路を通って餌のある場所にたどり着けるのだそうだ。
 この話の後、実はね・・・って感じで次のようなショッキングな話が続いた。
「S県の山奥の、ある小さな村では未だに土葬が続いていてね・・・・、驚くべき事に埋葬する前に死者の脳を取り出して、親しい者達で食するという風習がつい最近まで行われていたんだ。さすがに今はその習慣は廃れつつあるようだがね。
 山奥という閉鎖された環境というのもあるのだろうが、その村では、脳を食するという習慣以外にも様々な風習が実に見事に昔の形を色濃く残して伝えられているんだ。
 ラットの実験結果から考えて、脳を食していることが伝統を受け継ぐ上で大きな役目を果たしていると思うんだ。
 私は、もしアインシュタインの脳が手に入れば、迷わずいただくね。」

 本当なのだろうか?
 教授は嘘や冗談という感じではなく大まじめに語っておられたが・・・


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