悪夢2

 私たちの小さい頃は、よく生き物をいじめました。駄菓子屋で昆虫採集セットという名で、 毒薬と注射器が売られていたりもした時代でした。
 今の目で見ると眉をひそめるようなことも平気でしました・・・。


 現在は建て替えて鉄筋コンクリート製の家になってしまっているが、子どもの頃の私の実家は、築200年を数える古い家屋で、また商家でもあったため土蔵もあった。
 その屋根裏には蛇が棲み着き、交尾期となると、数匹の蛇がひとかたまりになって(いわゆる「蛇玉」となって)蠢きながら交尾を行っているのを目撃することもあった。
 その気持ち悪い光景を見て、祖父に、退治することはできないのかと訴えたこともあったが、祖父は笑いながら、
「蛇はこの家の守り神なんや。大事にしなあかんで。」
と答えるだけだった。
 小さな神棚に祀ってあるものが蛇神だった訳ではないが、蛇への信仰心は古い日本人の間ではポピュラーなものであったようだ。だから、幼い頃から蛇への畏敬の念は教わってきたはずだったが・・・・・。

 ある日、私は友人たちと河原で石投げをして遊んでいた。
 しばらくすると別の友人が段ボールの箱を抱えてやってきた。 
「その箱、何?」 
「蛇が入ってるねん。」
「蛇?どうしたんそれ」
「お父ちゃんが捕まえたんや。家の庭におったんやけどな。捨ててこいて言われて持ってきたんや。」
「ふーん、そしたら川に流そか。」
「そうしよ、そうしよ。」
 その川は一級河川で、川幅も水流もたっぷりある。河原から川の中へ押し出すと、箱はあっという間に流れに乗った。私たちはしばらく河原を追いかけていたが、よどみに入って流れが悪くなると、誰とも無く、その箱めがけて石を投げ始めた。
ゴン
ドン
ドスッ
鈍い音を立てて箱はゆがんでいく。そのうち、濡れて柔らかくなったのか、ズボッと箱に穴が開き始めた。面白くなった私たちはどんどん石を投げた。
 その時である。少し隙間の空いた箱の上部から、中にいた蛇が、「ヌッ」という感じで鎌首を持ち上げて、頭部をつきだしたのである。
 蛇は明らかに私たちを見ていた。
 石を手にしていた私たちは凍りついた。
 蛇にはもちろん表情など無いが、罪悪感と恐怖感に縛り付けられて、私たちは声を失い、立ちすくんでいた。
 しばらくすると、箱はゆっくりと流れ始め、本流に乗るとあっという間に見えなくなったが、蛇はずっと私たちを見ていた。

 その夜、私は恐ろしい夢を見た。

 近くの小高い山の中腹にある、お寺の釣り鐘堂。鐘の下で私は椅子に縛り付けられている。学校の教室にあるような木製の椅子だ。なぜそんなところに縛り付けられているのかわからない。
 日は西に大きく傾き、あたりは、夕闇が迫り始めている。
 ふと足下に目をやると、地面は蠢く生き物でびっしりと埋め尽くされている。ヘビ、ネズミ、トカゲ、ムカデ、クモ、ゲジゲジ、無数の昆虫・・・・。それらの生き物がぞわぞわと、私の方に迫ってくるのだ。
 足下に達した生き物たちは、私の足を這い上ってくる。振り払いたいのだが、足も縛り付けられ身動きできない。
 足を越え、腹部まで達したとき、先頭にいたネズミが私の腹にかみつき、肉を引きちぎらんばかりに、その小さな頭を左右に激しく振った。
 痛みと恐怖で私は絶叫した

 そこで目覚めた。
 汗びっしょりだった。
 夢であったことにほっとした。

 そんな夢を見た理由は明らかだ。蛇への罪悪感なのだ。
 命に対する畏敬の念、忘れてはならないと、私を戒めてくれる出来事だ。


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