最終電車
車両内は、ざわめいていた・・・・・・。
私は、日常、鉄道を利用することはあまりなく、専ら車で通勤をしている。だから最終電車に乗ることなど滅多にない。
その日は、出張のために鉄道を利用し、仕事の後は直帰だったので、出張先近くに住む学生時代からの友達に連絡を取り、久しぶりに痛飲したのだった。
気がつけば最終電車の時刻が近づいており、友人と別れた私は、地下鉄の駅へと急いだ。
平日であったので、プラットホームの人影はまばらだった。すでに着いていた電車に乗り込むと、その車両には4〜5人の乗客が居るだけだった。
出口に近い座席に着くと、すぐに眠気が襲ってきて、列車の出発を待たずに、私は眠りに落ちた。
しかし、耳から入ってくるざわめきと列車の揺れは、すぐに私の意識を水中から水面へと引き揚げるかのように覚醒させていった。目を開けてはいないが、かなりの乗客で車両が満たされていることが判った。眠っている間に、たくさんの乗客が乗り込んでいたらしい。酔客もかなりいるようだ。楽しげな談笑が遠慮がちに聞こえる。
私の左隣にも乗客がいる。その人も眠っているのか、私の方に体重を預けるようにして座っている。右は手すりがあるので、逃げるわけにもいかない。女の子だったらいいな、などと、間延びした考えが浮かぶ・・・・。
目的の駅はまだ先のはずだし、私は目を閉じたまま、心地よい列車の揺れに身を任せていた・・・・・・・。
列車が駅に近づいたのであろう、ガクンと列車が揺れてスピードが落ちた。私は目を開けた。
私は、小さなパニックに陥った。何が起こったのか理解できない。
こじ開けた目に飛び込んできたのは、乗ったときと変わらないがらんとした車内だった。乗客で満たされているどころか、バラバラに座った4〜5人の乗客たちがいるだけだ。つい今し方まで二の腕に感じていた、隣の乗客の重みも、もちろん無い。
あれは、夢だったのか。 映像のない、音と触感だけの夢?
それにしてはリアルすぎる。
周りの様子を感じとってから、また眠り
に落ちたのだろうか?その間にみんな
下りてしまった?
しかし、そんな大きな駅はない。
私が感じた、あの乗客たちの
気配は一体どこへ消え失せたの
だろうか?
いや・・・・・・・
私は、さっきまで、どこにいたのだろうか・・・・・???
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