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嫉妬の炎

 乗っている車が古くなり買い換えようとしたとたんに調子が良くなったりして、手放されることを車が嫌がっているように感じるという話を聞くことがある。
 私も、今までバイクや車を手放そうとした時に、そうした思いを抱いたことはあるが、今回ほどの強烈な経験は初めてだ。
 命の危険さえ感じることになろうとは・・・・・

 9年前に買ったH社のミニバンタイプの車の積算走行距離が120,000kmを超え、燃費も落ちてきたので車の買い換えを決めた。既に商談にも入り、わずかながら下取り価格も出ている。しかし今回の出来事で、その下取り価格もご破算になりかねない。
 元々MAZDAの車が好きな私が、同じ種類の車(Premacy)がMAZDAにあるにも関わらず現在のH社の車を9年前に買ったのは、燃費がいいという理由だけだった。また、買った時点ではPremacyの3列目のシートは使わない時の床下格納が出来ず、脱着式という信じられない機構だったので、Premacyにより魅力を感じてはいたが購入をあきらめたのだった。
 車を買う時は事前に手に入れたカタログを何度も見て納車を心待ちにする私だが、今の車を買った時は全くと言っていいほどそんなわくわくした気持ちを持たなかった。
 だから燃費が落ちてきた時点で、今の車には愛着を抱けなくなっていた。
 頑張って家族のために働いてきた車なのに、ぞんざいな気持ちで乗ってきて今から思えばかわいそうなことをしてきたと思う。

 夕刻に用事があって二人の同乗者を乗せて車に乗り込んだ。
 2列目のシートが少し前に出ていたので、乗りにくいだろうと思い、後ろにぐっとスライドさせて同乗者達を乗せた。
 一人を自宅に送り届け玄関先で立ち話をしていると、車に残っていた者が車が燃えていると言って駆けてきた。
 車を見てみると、開けたサンルーフからもうもうとを白煙が上がっている。
 慌てて戻りリアドアを開けると、2列目の座席の下中央部分から炎が上がっているのが見えた。
 まだ踏んでもみ消せる大きさだと思ったので、座席の後ろから足を突っ込み消火しようとしたが、火の勢いは弱まらない。
 送り届けた者にバケツで水をくんでくるように頼んだ。
 水が届くまでも懸命に足先で消そうと試みたが、ガスも出ているのか
少し黒く濁ったオレンジ色の炎の勢いは増すばかりだった。
 溶けたシートベルトがぽとりと落ちるのも見えた。
 このまま燃え広がり爆発してしまうのではないかと、恐怖した。
 じりじりして待っていた水が漸く届き、勢いよくかけたが一杯では完全に
は消えず、まだチロチロと炎が出ている。
 もう一杯汲んでくるように頼み2杯目の水をかけてやっと鎮火した。

 一体何が火元かと座席の下に手を突っ込んでみると、半分溶けた使い捨てライターが出てきた。
 恐らくシートの隙間に落としていたライターの着火装置が、座席をスライドさせた時に押されて働いたのだろう。
 ライターを落としていた私の不注意が出火の原因であることは明白だ。しかし、週末に車購入のための書類への記入捺印を控えている、このタイミングでの出火
 この車を愛してこなかった私に対する車からの無言の抗議と、新車へのこの車の嫉妬を感じてしまった私は、車への思いいこみが激しすぎるのだろうか。
 焼けてしまったシートを修理することはもう無いが、せめてきれいに洗って掃除してやろうと思っている。